天皇陛下の ご退位について

 陛下が2012年に心臓の手術をされた時、「普通、この年齢で手術をしたら、周りの人たちは『これからは、やりたい事をやって、ゆっくりと老後を過ごしてほしい』と思い、本人も(たいていは)そうするのだと思うのだが、陛下はどうされるのだろう?」と思った。

 

 去年8月の陛下のビデオメッセージを拝見した時、「ご自身のご体調に加え、皇太子さまや秋篠宮さまの年齢が50歳を超え、ご自身がお元気なうちに次の世代に交代したい。しかし、今後の事(『新天皇が、将来、自分と同じように体調に不安を抱えながら公務をする』という事で悩まなくていいように)を国民にも考えてほしい、と思われたのかな?」と思った。

 

 去年11月の朝日新聞「皇室のこれから」という連載記事を読んで驚いた。

 2015年、陛下は365日のうち261日お務めだ。(平日242日のうち220日お務め。土・日・祝日・年末年始〈12月29日~1月3日〉123日のうち41日お務め。)

 お務めが無い日も、先々の行事や面会相手の資料に目を通されるという。

 さらに陛下の74歳当時の1年間の公務と、昭和天皇の同年齢時と比べると、駐日大使・外国賓客との会見は1、6倍、外国に赴任する大使らとの面会は4、6倍に膨らんでいるという事だ。

 そして、1991年の雲仙・普賢岳噴火の被災地お見舞いから始まったのが「被災地訪問」。

 広島・長崎・沖縄をはじめ、国内外での戦没者慰霊の旅。

 年齢を重ねるたびに、移動だけでもお体に負担がかかるようになられたのではないか。

 

 しかし、本当のところ、陛下は「今までの経験で、○○については、○○というふうに変更してほしい」とか「○○の件については、もっと○○にした方が良いのではないか」とか、「退位については、こうしてほしい」というご要望がおありになるのか否か、ビデオメッセージでは伺えなかった「本音」の部分を伺いたいと思った。

 でも、お立場上、それは公にはできないことだと思うが。

 だが、今回、有識者会議で審議される時に、昭和・平成の、戦前・戦中・戦後という大変な時代を生きてこられた「陛下の想い」というもの、「そのお立場でしかわからない想い」というものも、是非、考慮していただきたいと思う。

 それは、ずっと「国民の声に耳を傾け、思いに寄り添う事も大切な事と考えてきました」とビデオメッセージで話された陛下に対して、国民もまた「陛下の想いに耳を傾けなければいけない」と思うからだ。

 

 

 いろいろ考えていたら、先週、朝日新聞(1月19日)の、高橋源一郎氏の「歩きながら、考える」という記事の中で、一つ、答えをみつけたように思った。

 

〈陛下は、美智子妃と結婚する直前の皇太子時代に、こんな事を友人にしゃべった、と伝えられている。

 『ぼくは、天皇職業制を実現したい。毎日朝10時から夕方の6時までは天皇としての事務を執る。そのあとは、家庭人としての幸福をつかむんだ』 〉

 

 陛下が「天皇職業制を実現したい」とおっしゃっていたのなら、一般の国民のように「定年制」を設けたらどうか。

 例えば「65歳(70歳?)で定年。しかし、陛下のご希望を伺い、1年ずつ延長可能。70歳(75歳?)まで」とか、「65歳(70歳?)から70歳(75歳?)までは、平日午前中のみのお務め。70歳(75歳?)以降は、陛下のお考えを伺って定年とする」というように、とにかく「陛下に選んでいただく」という選択肢もあるのではないか。

 「象徴天皇」というお立場だから、そういう考え方は無理だと言われればそれまでだが。

 しかし、現在皇太子さま56歳、秋篠宮さま51歳。

 新聞・テレビ等の報道では、政府は「退位を一代限り」とする方向のようだが、10年15年は、本当にあっという間だ。すぐにまた、審議が必要になるのではないのか?

 

 だから今、今後の事も考えて「大規模な公務縮小」とか、「必要な公務を誰が引き継ぐのか(引き継げる人がどれだけいるのか)」(2012年、民主党皇室典範改正に向けた論点整理を公表。女性宮家を創設して結婚後も皇族として残ってもらう案と、国家公務員にして公務に携わってもらう案の両論が併記されたが、政権交代で頓挫した)などと共に、「老後のゆったりとした時間を持っていただくにはどうしたらよいか」という点についても検討していただきたいと思う。

 

 それと共に、報道に関しては、これだけ個人情報を守る世の中の流れに対して、皇室の方々のプライベートなことについて、もう少しご配慮をいただきたいと思う。

 たとえば「体調がすぐれず、学校を休んでいる」とか「病気で療養中」という報道は「もし自分だったら、人に知られたくない」事であり、そっとしておいてほしい事だ。

 そういう点に配慮をいただき、良くなられてから、お元気な姿を報道していただけたら、と思う。